「何か弱みでも握られているんですか?」

中学校の同級生が遊びにきた。関東に、一週間ほど滞在するのだという。「要約すると、二日間休み取れる? ということなのだけれど」メッセージが届いたのは先月の終わり頃で、俺は「問題ない」と返信した。

予定を教えてくれる人が何人かいる。しかし「休めるか?」と訊かれたことはほとんどない。まったくないかもしれない。新鮮だった。

休日申請には「友人の関東観光を補助するため」と記入した。「私用」でも受理されるが、なるべく具体的な理由を書くようにしている。

土曜と日曜で休みを取ったのだが、上司のはからいで三連休になった。

行ってみたいところがあるらしい。川越の蔵の町、大谷石地下採掘場跡、日光東照宮三峯神社。君の行きたいところに行こう。

大谷記念館の敷地には車の徐行をうながす注意書きがあった。俺は「静かに走りましょうって書いてあるよ」と指を差す。「たぶん、そういう意味じゃない」俺の冗談は、言い終わる前に伝わった。忍者の走り方について話すつもりだった。

秋刀魚のお刺身を食べた。店主に「どうしました? 緊張しているんですか?」と訊かれる。どうなのだろう、すぐには答えられなかった。少し考えて、友人に話す。その気持ちは分かると友人は応えた。

「何か弱みでも握られているんですか?」店主の質問に笑ってしまった。握ったことも握られたことも、たぶんない。「いいえ。借りならあります」今度はすぐに返答できた。

俺は友人に店主の話をする。あの人、凄いんだよ。「そういうことは本人に言わなきゃ」「言うつもりはない」スタッフのことも。「だからさ」

神社に寄った帰り道、友人が俺のことをどう思っているか、話してくれた。

「一般にいう不良って、やっちゃいけないことを、あえてする人なんだと思う。その意味では、結局のところ誰かが決めたことに従っているといえるんじゃないかな。ルールとか定義とか、そういうものに。あなたは違う。たとえば、みんながダメだと言っても、あなたがダメじゃないと考えたら、きっとやると思う」
「俺は、常に自分が正しいとは思っていないよ。疑っていることの方が多い」
「それは分かっている。まあ、なんというか、やっぱり決まりはある。だけれど、あなたには決まりだからと言ってもきっと通用しないんだ」

君の片思いについて、俺は感想を述べる。「俺が考えるのは、実現するための、あるいは実現しないための手段なんだ。でも、きっと今、君は手段を必要としていない。だから、俺も少し困っている」「私が必要としているのは理由かもしれないね」

どうだった? きっと、俺は明日君に訊かないのだろう。だけれど、もしも君が明日についてのことを俺に話してくれたなら、俺は「良かったね」という感想を君に伝えるのだろう。