「路地裏の天井、どす黒い線が空を切り裂いている」

三日間くらい、同じ設定の夢をみていた。もしくは、覚えていた。人や場所からこれは大宮の夢なのだろうと推測する。 夢は片付けのようなものであるとどこかで習ったか、本で読んだ。記憶を整理するプロセス。その他、願望が形になる場合もあるらしい。俺がみ…

「どうせなら僕がもうひとりいたならそれはそれでハッピーだ」

紆余曲折を経て、演奏会のプログラムは俺が印刷することになった。突き詰めるとそれは俺の都合だった。友達はピアノを弾く。 「あんまり手先が器用じゃないけれど、なるべく綺麗に折るよ」 「それは当日手の空いた人たちでやりますので」 「折れていないプロ…

「あどけないまま眠る横顔」

やはり俺は西尾維新の小説を読まなくてはならないのだと思う。「人間強度が下がる」「能動的孤独」打ちのめされるような言葉の数々。動く画の中から断片的に見聞きしたこれらを、文章の中で知るべきなのだと思う。 「仕事から帰ってきた時、私が部屋にいたら…

「思うままにいけよ、背中くらいは押してやるから」

仕事でとんでもないミスをやらかした。10年に一度のレベル。同僚が助けてくれた。電話と文字でやりとりをする中、彼は一切の動揺を俺にみせなかった。肝が据わっている。終わったあとは笑い飛ばしてくれた。大きな借りができた。俺は彼と同じようにできただ…

「僕たちに示された仮想の自由」

7月11日の木曜日、15時半。 演奏会用プログラムを作成する打ち合わせの二回目。今回で、たぶん終わり。別件である音楽の打ち合わせはベローチェか焼き鳥屋さんで行われることが多かった。 「うちくる? きみの部屋とちがって煙草が吸える」 「ベローチェも、…

「ドーはドーナツのド」

母親がクラシック音楽と仏教に興味を持ったのはいつだろう? おそらく、俺が実家を出た頃だと思う。季節に一度くらいの頻度で近況を伝え合う中、なんだかいつもKitaraに行っているなあと思っていた。あのホールを「悪くない」と言っていたのは高校の教師だろ…

「生まれ変わってもまた会おう、同じ場所でまた会おう」

「パソコン得意ですか? 得意ですよね。パソコン持っていますもんね」 友達の問いは質問という形を採りながら、実質的には俺に何も聞いていなかった。 何年か前に、全く異なる場面でこの手口を使っている人を見たことがある。とある舞台が終わった後の対談で…

「僕には無縁だと思っていた」

大好きな人がいる、尊敬している人もいる。それはもう、両手では足りないくらい。「敵わない」とも思う。勝ち負けの定義が曖昧だけれど、これは一種の敗北感だろうか? しかし、あの人のようになりたいという意味で憧れることはほとんどない。俺自身がなりた…

「泣きたいときほど涙は出なくて」

以前「あなたの優しさは彼とは違う。彼は誰にでも優しいけれど、あなたはそうじゃない」という内容の指摘を受けたことがある。どうしてだろう。ぼんやりと理由を考えていた。相手の中に共通の要素もしくは因子があるだろうか。しばらく経って、違う話をして…

「僕と君と、あなたと私がいて」

「動機の言語化か。あまり好きじゃないしな」 クロロ=ルシルフルのセリフは、衝動に対する理由の後付けが本意ではないという意味だろうか。俺はというと、比較的言葉や文字に起こすことが多い。仮に説明になっていなくとも、自分が納得できればそれでよいと…

「話したいこと、山のようにあったけれど」

我が家の大掃除を敢行した。3月29日に開始、4月7日に完了。大変だった。 2016年の9月、友人の来訪を機にできるだけのことをやったのだけれど、十分ではなかった。そのときは友人が掃除軍曹となり、部屋が綺麗になった。 「あとはお風呂場の維持だね」 「頑張…

「ペットボトルが山盛りならば」

「深爪さんの部屋が綺麗だったら転がり込んでいたのに」 友達の冗談に俺は応える。 「俺のことを信じてくれるのはありがたいけれど、余計にこじれるんじゃないか」 部屋が汚い。病的に汚い。ゴミの地層こそ形成していないものの、ゴミとゴミじゃないものが混…

「次はきみの番だと笑っている」

アパートの近くにあるコンビニに寄ると見覚えのあるリュックサックを背負っている人がいた。北欧のリュックサック、モスグリーンのコート。彼女はおにぎりコーナーにいた。顔はみえないけれど、髪の長さと色も記憶と一致した。ただし、まっすぐだった。友達…

「やばいことになっちまった。トニーの奴がしくじった」

約束を破ってしまった。二度寝。カレーが終わる時間に起きた。真大さんには言ってなかったが、その日は正人さんとも約束していた。「俺、火曜休みだから。一緒に飲みましょう」「それならカレーを食べに行こう。19時半までやっているって。一人で行くつもり…

「殺したくなるような夕暮れの赤」

北海道出張の際、いつもは実家の車を借りているのだが今回は車がないため電車で通勤している。始発待ち。営業所にいてもよいけれど俺は仕事が終わったら退社するようにしている。電車に合わせて仕事をする気力はない。 3月7日(紗南の日であることは十年くら…

「孤独の数ほど、飲み屋はあるけれど」

久し振りの大阪出張。月の半分くらいは出張であちこちに行っていることが多いけれど、別段大阪営業所から出入禁止処分を受けたわけでもなく、たまたまである。調べてみると仕事で訪れるのは昨年の七月以来だった。 新大阪駅を出て北に進むと東三国という町が…

「もしも今日があの日の続きなら」

昨年の11月10日、同級生のIと新橋で会った。同僚のことで相談したいことがあったから。なんだか、ここ数年で周囲の揉め事が増えているような気もする。 「久しぶり」 Iが手を差し出す。握手。我々が会うのはいつぶりだろう。14歳か15歳じゃないだろうか。四…

「その手は大事な人とつなぐためにある」

山口雅也の『生ける屍の死』を読み終えた。 ◇ 初めて推理小説を読んだのは、きっと中学生の頃だった。 俺が日記を書き始めたのは20代の半ばである。残念なことに、日記以前の記録は残っていない。だから、俺の話には「おそらく当時はこうだった」という類の…

「雑音に埋もれたまんまの埃まみれの本音」

「前回無駄話で終わってしまって、本題に入るの忘れてました!」 「事件か!」 「5分だけ時間を作ってください。家の前でもいいんですけど」 「家の前はやめて」 連絡のあった日、ちょうど俺は日勤だった。深刻な話なのか、冗談なのか。5分なら後者かなあと…

「屁理屈の正義で夢を殺す。僕らの明日が血を流した」

友達の名前には、花の名前が入っている。綺麗な名前だと思う。俺は彼女のことを名前で呼んでいるけれど、ここでは仮に桜さんと書こう。 桜さんとYさんは恋人同士で、俺は彼女よりも先に彼と知り合った。彼は千葉寄りの町で働いている。年に数回、会いに行く…

「昨日の今日も延長戦」

戦ではなく線かな。どっちだろう、調べたら戦だったけれど。 ◇ 1月10日、ちょっと間違った。それが些細なことなのか大事なのか、俺には分からない。しくじったな、そう思った。 夜、別件で友達に連絡した。最初は文字で会話していたのだけれど面倒くさくなっ…

「手を振った君がなんか、大人になってしまうんだ」

これは、もはや呪いみたいなものじゃないか。 ◇ 吸っている煙草のパッケージが変わった。幾度となく見た目が変わってきた銘柄ではあるけれど、今回の変更は、ちょっとあまり、好きではない。気持ち悪いというか落ち着かないというか。馴れるのかな。 煙草を…

「伝えなくちゃいけないお前の言葉で」

昨年末、友達と約束していた。話を聞いた結果、白紙に戻した。◇気をつけていたつもりだったけれど、十分ではなかった。もしくは不適切だった。友達が恋人と喧嘩した。原因は俺らしい。12月28日が終わった夜、いつもの焼鳥屋さんが避難所になっていた。彼女か…

「何度消えてしまっても、砂の城を僕は君と残すだろう」

12月10日、友人のMに言った。 「今回の件、俺は首を突っ込まないことにした」 Mからは「私も」という返事。彼女は、ああ、そうだと続けた。「私もきみに言いたいことがあったんだ。課題図書を交換しない? 本を読んでいたらきみに合いそうだと感じた。送る。…

「いったい誰が知っているの? いったい何が教えてくれるの?」

俺のことを「○○ちゃん」と呼ぶ人は限られている。そのうちの一人から電話があった。勤務中、原則として仕事以外の電話には出ないのだけれど、彼からの連絡はそう多くなかった。 「○○ちゃん?」 呼ばれて、少しだけ懐かしい気持ちになった。 「何かあった?」…

「しょうがないけど笑いながら、追い出さないで暮らしてみる」

11月25日の日曜日はお休みだったが、少しだけ会社に行った。週末、色々なものをぶん投げて帰ったから。1時間もあれば終わるだろう、パソコンを開いたとき同僚のRからメッセージが届いた。 「家っすか!」 「ううん。今、会社ついたとこ」 「現場っすか!?」…

「少しだけ平気な様子でいよう」

午前3時頃に仕事を終えて、一度家に帰る。4時を待ち、バス停に向かう。羽田へ。たまには帰れと組まれた北海道出張。新千歳空港に到着したのが8時すぎ。機内では寝なかった、少し、眠い。外で煙草を一本吸ってから電車に乗った。「快速エアポートは特急じゃな…

これくらいやっていい

本編よりも先にあとがきを書いて公開するような、そんな幼稚な行為かもしれない。 だけれど、どうしても書きたかった。それくらいに彼の音楽は、彼の言葉は、鋭かった。◇やってみたいと思いついたのがいつなのか、正確な記録は残っていない。おそらく、ふぁ…

「くわえ煙草の煙が、ちょっとしみたみたいに」

「諦める」という言葉に「決めつける」という言葉を紐付けることが多い。 つまり、諦めた人に対して「決めつけるのはまだ早い」と抗議することが多いという意味だ。なんだかそう言う俺自身が何かを決めつけているような気がしないでもないけれど「たぶんまだ…

「つまり犯人は僕自身なのだっていうのはもう何度目のオチだ」

たぶん、悪い酔い方をした。これが結論だと思う。 普段、まわりにいる人たちがどう感じているのかは分からないけれど、絡み酒にならないよう、自分なりに注意している。かつて父親が酒を飲んでいた頃、比較的ひどい状況だったから。兄貴と俺は、酔っている父…