携帯する日曜日

そういうわけで、同人誌やります。

彼が俺の文章を読んでくれたのは、彼が中三のときだったらしい。媒体は携帯電話。読みにくくなかっただろうか。今になって不安になる。手遅れだ。彼は、とある有名なウェブサイトからいくつものリンクを経て、遊びにきてくれた。あの日、仮に月が出ていなかったとしたら俺は日記を書かなかったかもしれない。彼はコメントを残さなかったかもしれない。
確実なのは、この日、彼の一言がなければ『携帯する日曜日』という言葉はたぶん生まれなかったであろうということだ。

火曜日の夜、彼こと、幕之春太さんとお酒を飲んだ。はじめまして。俺は寝坊した。すみません。約束していたところとは別の街で待ち合わせた。ほんの少し、仕事に関する話をした。
訊いてみた。
「お仕事は、××か○○ですか?」
「近いです。話しましたっけ?」
「いえ、休日の感じが。俺は△△の仕事をしています」
「そんな気がしました」
「分からないように書いていたつもりなんですけれど」
「黒い羊と白い羊の話で」
「そうか。分かる人は分かるんですね」

この会話を交わした何時間か後に、彼は「とんとん拍子で話が進みましたね」と言った。その通りだと思う。

「絵を描いていました」

目に見える始まりは彼の一言だった。そして、イラストをみせてくれた。かわいい。「続けた方がいいと思いますよ」感想を伝える。「初めて言われました」だってかわいいから。描いた方がいいと思う。

「何か一緒にやりましょう」そう言ったのは、どちらだったか。彼のような気もする。いや、俺か。俺が挿絵を描いてくださいとお願いしたのか。「せっかくですから形にしましょう」そう言ったのは彼である。「やりましょう」

「マンガ、描くんですか?」バーテンダーに訊かれた俺は「そうです。今決まりました」と応えた。

「サークル名は何にしましょう?」意見を求められ、俺は困った。名前、名前。サークルの名前を考えたことがない。どんなサークルがあるのかも知らない。「カタカナがいいのか漢字がいいのか」俺が悩んでいると、春太さんは「水曜日のカンパネラは、水曜に打ち合わせをすることが多かったのでそういう名前になったそうですよ」と教えてくれた。なるほど。
「では携帯する日曜日で」俺は提案する。彼は、一瞬きょとんとしたようにも見えた。
「けいたい?」
「携帯電話の携帯です」
「その心は」
「春太さんが携帯電話でネット界隈を歩いていたということ。そこから携帯をとりました。そしてカンパネラが水曜日なら、我々は日曜日です。読んでくださる方にとって、おやすみの日が身近にあってほしいから」後から思ったのだが、もしかしたら俺の憧れのようなものが形になっていたのかもしれない。実を言うと、日曜日は休日である方が良いと俺は考えている。だけれど、彼も俺も、そうとは限らないから。

ともあれ、そうして携帯する日曜日は結成された。

翌日、俺は悩んでいた。半ば勢いで決まったものの、考えてみれば、携帯する日曜日って、なんだかシャルナークの念能力みたいじゃないか。気がつかなかった。半分かぶっている。いやあ、どうなんだ。「この際、春と爪でいいのでは?」春太さんに相談した。
「春爪ジンフィズはどうでしょう?」
なるほど。打ち合わせた時に飲んでいた酒のひとつだ。それに、うむ、ここに理由は書かないけれど、しっくりくるものがあった。いや、ならば。
「ジンを抜きましょう。春爪フィズで」
「そうしましょう」

目指すは、来年の夏! 出来上がったら、どうか、手にとってみてください。物語はともかく、かわいいです。