「割れんばかりの拍手も響き渡る歓声もいらない」

「深爪さん」

「何を読めばいい?」

「察しがよすぎます。ちょっと二作ほど短編読んでほしいです」

「気持ち悪い?」

「びっくりはしました」

送られてきた二編を読む。高校生が書くレベルの文章ではないと思い、そうではないと考え直す。俺は高校生だった頃の自分と現在の彼女を比較しているだけだ。当時の俺はここまで書けなかったと思い、違うだろうと改める。今も書けない。彼女と同じ文章を、俺は書くことができない。

求められているのは感想だった。面白かったとか、詰まらなかったとか。他に何かないのか。他人の文章を読み、感想を伝えるという行為は難しい。その人が書く人でなければ、俺もここまで慎重にならないと思う。書く人だからこそ気をつかう。彼女の文体に影響を与えてはならない。この文章はこのままで良い。読みにくいところがある。一文が長いところもある。このままで良い。口を出してはならない。「俺ならこう書く」という考えも伝えてはならない。プロじゃないから。専門家でもないから。彼女の目指す先に俺はいないから。

読書感想文を書いた。1,281字だった。

「なんか、深爪さんの感想読んで思ったんですけど全部バレるんですね」

「ん? あー、俺、凄いから」

「構成考えずに書き始めたとか、難しかったとか。すごい」

「冗談です」

誰かに何かを言えるほど、文章を書くことが上手であるとは思っていないけれど、真剣に読むことはできる。「書きかけのものでもいいよ、また送るといい。ちゃんと読む」そう伝えた。