「言葉はまた途切れてく 漂うことができなくて」

ローカルに保存された、友達の昔の日記を読み返していた。知り合う前に書かれた日記だ。彼の知る世界に、俺はまだいない。いや、いることはいる。認識されていない。

俺と彼の記憶。どちらかに誤りがある。

俺と彼はいつ知り合ったのか?

俺は、彼が専門学校に通うために上京してからだと思っているし、彼は、彼が高校生のときに俺と知り合ったと思っている。曖昧なのだ。

今でこそだいぶ馴れたが、彼には驚かされるばかりだった。そのとき彼は18歳か19歳で、年齢など関係ないと思いながらも「こんな18歳がいるのか」と思わずにはいられなかった。たぶん、自分と比較している。だから、同じくらいの年齢だった頃の俺が幼かった。それだけのことかもしれない。

彼と喧嘩したことはほとんどないけれど、何度か怒らせたことはある。あるいは、不愉快に。もしかしたら、もっともっと沢山あるかもしれない。だから俺が気づいたのは数回、という意味だ。逆に、俺が切れたこともある。一方的に。そのときのことをつい最近、といってもおそらくは半年以内に彼が話して、恥ずかしくなり、ごめんなさいと謝った。

そんなこんなで、俺の手元には彼が高校生の頃に書いた文章もあり、懐かしい。知り合っていたのか、否か。定かではないけれど、懐かしく思う。

おそらく、俺は彼よりも彼の音楽を繰り返し聴いている。よく分からないなあと感じる曲もあれば、これはいいと思う歌もある。

前に同じことを書いたかもしれないが。

彼が録音の仕事をしているときは、あまり会うことができなかった。彼はほとんど家に帰っていなかった。俺は彼に比べたら休みがあった方だけれど、今みたいにどこかへ出掛けようという感じでもなく。寝てたら終わった。
それでもたまたまタイミングが合って、きっと一緒にお酒を飲んだ夜に、彼がレコーディングに関わったという曲を聴かせてくれた。彼の部屋だったか、電車の中だったか、よく覚えていない。

「どう思う?」

たしか二回聴いてから俺は感想を述べた。「諦めているように感じる」彼はにこにこしながら話を聞いている。俺は続ける。「うまいんだけど。この人、何かを諦めているんじゃないかな。後ろ向きってわけじゃなくて、なんというか、仕方ないというか、希望に溢れているようには感じないし、だからといって絶望しているわけでもない。ただ、そこにいる感じ。腹が立つことがあっても、悲しいことがあっても、そこにいることを受け入れている感じ」原文ままではないが、このようなことを言ったのだと思う。そして、俺は気づく。彼はにこにこしていたんじゃない。ニヤニヤしていた。

「ねえ。これ、誰が歌ってるの?」

俺の耳は節穴だね。誰よりも聴いているはずなのに、君が歌っているということに全く気づかなかった。

今年の春に、ラジオから流れる歌を聴いて、俺は彼のことを思った。

彼の曲みたいだ。

歌詞は英語で、何を歌っているのかよく分からない。だけれど、なんだか、彼みたいだ。
コードとかリズムとか、うまく聞き取れない。手拍子をしたくて、俺はリズムが取れなくて、君の手拍子を頼りにして、君はそんな俺をみて。相変わらずリズム感がないなあ。きっと呆れて笑ったのだと思う。
そうなのだけれど、分かったんだ。君の歌みたいだということは分かった。

俺は君に言う。「聴いてほしい曲がある。これ、君っぽくない?」聴き終わった後、君は笑う。「本当だね」

君に話したいことがある。いつだったか、君は俺が書いたクリスマスの話を読んで「ありえねえ」と笑ってくれた。
君に聞いてもらいたいサンタクロースの話がある。サンタがいた。煙突がなくて、困って、「やむをえない」と呟いたサンタがいたんだ。