「屁理屈の正義で夢を殺す。僕らの明日が血を流した」

友達の名前には、花の名前が入っている。綺麗な名前だと思う。俺は彼女のことを名前で呼んでいるけれど、ここでは仮に桜さんと書こう。

桜さんとYさんは恋人同士で、俺は彼女よりも先に彼と知り合った。彼は千葉寄りの町で働いている。年に数回、会いに行く。

春にCさんが異動する。そんな話を聞いた。異動先は、Yさんが働く町。ふらっと遊びに行ってお酒を飲んでいたら、なんだか彼女を待っているみたいで、ますますストーカーの色彩が強くなるかもしれない、今のうちに会っておこう、俺はそう考えた。

桜さんに連絡した。日曜日、Yさんが働いているかどうか。また、桜さんに時間があるかどうか。もしYさんが働いていて桜さんに時間があるなら彼の店に行こう。聞いてもらいたい話がある、と。

「実は、1月いっぱいで彼、辞めたんです。嫌な辞め方ではないです」

「!!」

そうなるとどうなるんだ。俺があの町に行く理由はなくなる。あの町に行かなくなるということは、ストーカーの嫌疑をかけられることもない。

「彼は日曜、お休み?」

「はい。私は仕事なので21時過ぎなら」

「俺の話を聞いてくれー! もちろん、彼も一緒に」

「オッケーです!!」

相談したかったわけじゃない、賛同して欲しかったわけでもない。強いていうなら答え合わせか。たぶん、俺は答え合わせがしたかったんだ。

日曜日の夜、駅で二人を待つ。

「すみません! 今××にいるんですけど……」

そこは、駅から5分ほど歩いた所にあるパチンコ屋さんだった。状況が分からなくて笑った俺は「仕事とは」と返事を書いた。

後で話を聞くと、お休みだったYさんはパチンコを打っていたらしい。仕事を終えた桜さんが彼を迎えに行くと大当たりが続いていた。終わる気配がない、やむをえない、彼を置いていこう。彼女が判断したタイミングで、ちょうど大当たりが終わった。

YさんはYさんで、俺が桜さんに話したいことがある、ということは、自分がそこにいない方が良いのではと考えていたらしい。なんとも呑気というか、器が大きいというか。君に聞かれて困る話を桜さんにしないよ。

世の中の、パチンコのイメージが最悪であることは分かっている。「ゴミ溜めみたいなパチンコ」俺の好きな曲にはそんな歌詞があるように。だけれど、それは事象の一面にすぎない。娯楽としてのパチンコも確かにあるのだ。『僕だけがいない街』にあるパチンコの描写はとてもフラットなものだった。

そういうわけで、我々は無事合流を果たした。

「待たせてしまって」

「待ってない」

黄色の看板を掲げる焼肉屋さんで、二人に話を聞いてもらった。

「でも、音楽は続けるんですよね?」

「フェードアウトしようと思う」

二人は、肯定も否定もしなかった。いや、どうだろう。少なくとも「こいつ何言ってんだ」という顔をしていなかったように思う。答え合わせ、できたかな。