二人称の可能性

『あなた』という言葉について考える。[he]や [she]は複数形になると[they]となるが[you]は[you]のまま。かつては[thou]や[ye]という言葉があったらしい。どのような経緯があって[you]という言葉に統合されたのか俺は分かっていない。しかし、歴史を知らない限りではという条件がつくけれど、統合されてよかったのではないか。[you]は[you]のまま変わらないという現在の形式が、結果的に二人称の特殊な一面をあらわしているのではないかと思うからだ。
『あなた』という言葉は、少し変わっている。
向かい合ったとき、彼も彼女も俺にとっての『あなた』になりうる。また、鏡を前にすれば俺も『あなた』になりうる。誰もが例外なく『あなた』になりうる。少し飛躍するかもしれないけれど、俺は、なにものでもない存在を『あなた』と呼ぶこともできる。そう考えると、二人称には可能性がある。ひとつの前提をクリアすれば、俺はあなたのことをあなたと呼ぶことができるのだ。向き合っているということ。ただそれだけを必要とする。