「朝も昼も夜も風が南へと」

第二週の月曜日、22時半すぎに、札幌の小料理屋で同級生と再会した。彼とは、中学校が一緒だった。

卒業した後は一度も会っていないので20年振りとなる。
当時、話したことはほとんどない。彼がどんな人だったのか、全く覚えていない。名前も卒業アルバムをみるまで思い出せなかった。あだ名と顔は覚えていた。仮にOくんとする。

Oくんが店を始めたことを知り、いつか行ってみたいと思っていた。それは、「積極的に何が何でも」というよりは「タイミングが合えば」という感じだった。そうして、今の会社に入ってから何度目かの北海道出張中、今回は行けるかもしれないと思った。
前日の夜、Oくんとも仲が良かったであろうMに訊く。「出張で札幌にきている。Oくんの店は、日曜もやっているだろうか?」「どうだろう。今は忙しいと思うから明日の昼きいてみるよ。やっていたら私も行こうかな」

日曜日の昼、メッセージが届いていた。「水曜日と第一週の日曜が休みだって。あなたは、本当にタイミングが悪いね」「うむ」「せっかくだから、どこかでご飯でも食べようか」
その日の夜、Mは夕食に付き合ってくれた。また、Sも誘ってくれた。Sと会うのも20年振りだった。
「帰ってきたなら帰ってきたで、早く言えや」Mに言われる。「帰ってきたから構ってほしいと言うのは、ちょっと、遠慮してしまって。だからといって君に黙って彼の店に行くのもどうだろうと思い。ごめん」彼らとは、午前2時くらいに別れた。「スケジュールが変わった。Oくんのお店には、明日行くよ」「二人でどんな話をするんだろうね。とても興味深いけれど」

月曜日、家を出るのが結構遅くなってしまった。仕事に取り掛かる前にアクセルワールドを読み返したせいだろう。「もっと先へ。加速したくはないか、少年」最近始めたばかりのモンストをやりながら、札幌駅からすすきのまで歩く。

Mが話してくれたから、Oくんも俺のことを思い出していたのだろうか。店に入るなり、Oくんに「××くん?」と言われた。「久し振り」

彼は、第一週の日曜日が休みである理由を教えてくれた。「というわけで、ごめんね。昨日せっかく来てくれようとしたのに」「今日来られたから大丈夫」

終電に合わせたのだろうか、二人の客が帰り、Oくんと二人きりになった。お店は、2時までやっているらしい。20年前の話を少し。お互いにほとんど話したことがなかったのに、お互いがお互いを覚えていたということ。そして、俺は勘違いにも気づいた。「Mちゃんもね、中学のときは話したことがなかったと思うよ」そうなのか。仲が良いのだとばかり思っていた。「ねえ、Oくん。気になっていたことがあるんだけど。君はどうしてOくんと呼ばれていたの?」彼の本名には、姓名共にOという字がない。彼は「ああ」と笑い、教えてくれた。「だから、たぶん当時は誰も知らなかったんじゃないかな」なるほど。

誰もが理由を知らないまま、彼のことをOくんと呼ぶ。俺も含めて。そのことが、なんだか面白かった。

午前2時、彼は唐突に言う。「よし、飲みに行こう」「いや、片付けは?」「後でやる」

彼の知る店に向かう。歩きながら訊ねる。
「店を始めるの、すすきので良かったと思う?」
「思う」
「理由を訊いてもいい?」
「みんなが助けてくれるから」

彼の答えは速かった。そうか。相手も話の内容も違ったけれど、同じ答えを聞いたことが俺はあるよ。

閉店時間の欄に「燃え尽きるまで」と書いてある店に二人で入った。ほぼ満席。店主はベーシストらしい。Oくんと別れたのは、きっと4時くらい。いくつかの話をした。その中で、彼は「東京にはさ、いくらでもあると思うんだけど」と言った。俺は、少し考えてから答える。「東京のことは、俺もよく知らない。けれど、別になんでもあるわけじゃないと思うよ。少なくとも、東京にOくんはいない」

楽しかった。またね。