Train In Vain

1977年生まれの兄は、俺と二歳違う。兄と酒を飲んで、一年が過ぎた。

兄が宿泊するホテルのロビーで待ち合わせた。数年ぶりに再会した兄は父に似ていた。水色のシャツとハンチング帽。深い笑い皺。日焼けは仕事によるものだろう。見た目は違うのだけど、雰囲気がそっくりだった。満ちている感じ。体重を訊くと「81キロ」という答えが返ってきた。俺と10キロくらい違う。太っているようには見えない。父が兄と同じ年齢だった頃はおそらく50キロくらいなので、やはり見た目は大きく異なる。雰囲気とはなんだろう。考えながら一緒に歩いた。

大宮駅の西口にある焼き鳥屋さんに入った。何度もお酒を飲んでいる店だが、席を予約したのは初めてだった。

兄は、終始笑顔だった。兄が仕事の話をしてくれた。

「一応、役職にはついてるけどさ。ボスの他には俺しかいないんだよ。仕事してるだろ。会社の電話が鳴るから出る。ボスに話し掛けられるから応える。携帯にも掛かってくる。携帯でも話す。同時はきつい」「目に浮かぶよ」

お互いのことをどう思っていたのかという話もした。お互いがお互いに対してコンプレックスを持っていたということが判明して、俺も笑った。

「俺は、ずっとお前に対して劣等感を持っていた」
「なんでそうなる」

俺よりもずっと成績が良かったし、大学も、明確な目的意識を持って国立に進んだ。大学院を卒業し、父と同じ職業に就いた。父も嬉しかったに違いない。

「俺は、お前のように社交的になれなかった」

それが事実かどうかは分からないが、少なくとも兄の目にはそのように映っていたらしい。

別れ際、兄が言った。

「今日きて、良かったことが三つある。第一に、料理がおいしい。第二に楽しい。第三に、お前が元気そうだと分かって良かった」