衝突

白か黒かはっきりさせるのが仕事です。

これはたとえですが、牧場には羊がいます。ほとんどの羊は白いです。けれど、たまに黒い羊がいます。黒い羊は存在してはならない羊であり、見つけ次第確保しなくてはなりません。もしも黒い羊を飼っている事実が国にばれたら、オーナーの意思であるか否かに関係なく、それが仮に紛れ込んでしまったものだとしても、罰せられるのはオーナーです。牧場は閉鎖に追い込まれ、白い羊は路頭に迷うことになるでしょう。
羊を検査しつづけて、もうすぐ4年が経とうとしています。毎日100匹から200匹の羊を見ています。つい先日は、ひとりで400匹検査しました。さすがに疲れました。俺の集中力だと、だいたい200匹くらいが限界です。頑張って250匹。300匹以上の羊を、精度を落とすことなく検査できるのはうちの会社ではおそらく数人に限られると思います。
ちょっと前に、上司が20匹以上の黒い羊を見つけてきました。明らかに異常な数です。おそらく、オーナーの意思で飼われていたものだと思われます。1匹や2匹なら紛れ込んでもおかしくないけれど、二桁はありえない。おそらくですが、あの牧場はなくなるでしょう。残念ですが、あまりに悪質だからです。黒い羊はとても優秀なのでやがては真面目に白い羊を飼っている牧場をおびやかすことになります。その意味で、意識的に大量の黒い羊を飼っている牧場は悪質だといえるのです。

親方の検査力は、おそらく俺の上司と同等です。300匹以上の羊をみることができる、限られた人です。その親方と衝突しました。

いつものように羊を検査していて、一匹の前で手が止まりました。

非常に微妙なケースでした。しかし、羊を検査してお金をもらっている以上、白か黒かはっきりさせなくてはなりません。

俺は、黒だと断定しました。親方を呼んで、考えを伝えます。親方は、白だと断定しました。

こういうことが、まれに起こります。詳しくは書けないのですが、「ある」か「ない」かの見解は、しっかり勉強していれば必ず一致します。「ある」か「ない」かに関して、たとえば俺と親方で答えが異なるという事態になることはありません。しかし「白」か「黒」かとなると、若干話が違ってきます。「灰色」の羊がいるからです。

「お前が100%黒だと判断したということは分かった。けれど、俺は100%白だと思う」

親方の根拠には説得力がありました。

帰りの車の中で、親方が言いました。

「お前のいうことにも一理ある。黒かもしれない」
答えはまだ出ていません。出るかどうかも分かりません。