かなしいほど誠実なきみに何をいえばよかったのだろう

好きなひとの舞台をみてきた。一日目はひとりで、二日目は、大切な友達と。

事前に休日申請を出した。それでも、どうしても会社に行かなくてはならない用事ができて、私服で出社した。

「あれ、どうしたの」

上司がひとり会社にいた。「舞台は?」彼は、俺が休日を申請した理由を知っている。直接はなしたし、書類にも『私用』ではなく『好きなひとの舞台をみるため』と書いた。「これからです」「そっか」

「では、いってきます」「うん」

時間がない。

初めて行くホール。迷わず行けるはずがない。タクシーに乗った。
いただいた整理券は、60番台だった。お客さんがいっぱいいる。良かった。一番乗りしたかった。とても大切な舞台だから、最初のひとりになりたかった。なかなか思うようにはいかない。本当に、あたりまえのことなんだけど、思い通りにいったことなんてほとんどない。

けれど、きっと見えやすいという席を事前に教わっていた。そして、うまい具合に空いていた。思い通りにいかないということは、最低なことではないと感じた。

緊張しながら開演を待つ。

好きなひとの舞台をみるのは3回目だった。毎年、違う気持ちでみている。今年の気持ちは、なんだろう、いろいろあった。いろいろあったことが、整理されないまま俺の中にあって、整理されていないので、それぞれに未だ名前がついていない。自らいちど納得したにも関わらず蒸し返したことがあった。納得したはずだろうと、自分が嫌になった。かなしいこともあった。諦めかけた。しかし、繰り返しになるが、思い通りにいかないということは諦める理由にはならない。木を植えるねこが教えてくれた。

堂々と舞台に立つ好きなひとをみて、目頭が熱くなった。涙こそこぼれなかったものの、ひとりで良かったと思った。友達に見られたくなかったから。感想を忘れぬようにとレポート用紙に書き記した。舞台が終わってから、伝えることができるように。

好きなひとも、舞台も、本当に素敵だったと思う。
お疲れさまでした。

「××には感想がないんだ……私の見せ場だったのに」
「明日はもう少ししっかりみる」

いいわけに聞こえるかもしれないけれど、感極まって、それどころじゃなかった。

一日目が終わって、帰ってきて、お酒を飲んだ。ストレートかロックか忘れてしまったけれど、ウィスキーを飲んだ。平らで小さな瓶が空になった。「さようなら、ギャングたち」を読み終えた。

二日目は、友達の感想を聞くことができてうれしかった。「眼鏡を取った方がみやすい」彼はそういった。視野の話だと思う。彼には、俺がみえていないものがみえていて、きこえていない音がきこえている。そして、そのことを俺にもわかるように話してくれる。

幕間

(□ω□)「あのね、××では○○が好きなひとだからね。△△じゃないからね!」
(^p^)「わかった」

終演

(^p^)「あのさ」
(□ω□)「うん」
(^p^)「目印なくてもわかったんだけど……」
(□ω□)「え」
(^p^)「いや、ふつうにわかるでしょ」
(□ω□)「……(俺、目印なかったら見失っていたかも)」