ありがとう

主に腹筋を強化する鍛錬方法を、踊る人から教わった。特別なことは何もしない。道具もいらない。ただじっとしているだけ。これの良いところは全身に影響を及ぼしそうな点であると思う。時が来たら背筋を鍛える方法も教えてくださるという。

ただ、ひとつ心配なことがあった。俺は稽古場に赴くことなくひとりでやっているため間違っている可能性がある。改めて正しい形を教わった。思ったとおりだった。正しい形は、さらにきつかった。「せえの」で始める。俺の好きな曲が時計代わりだった。俺はおよそ一分でべちゃっとなった。自己ベストは一分と三十秒。踊る人は、二分が経過してもべちゃっとならなかった。積み重ねてきたものが違うと感じた。

もう一度。

俺はやはり一分でべちゃっとなった。自分でも分かっている。問題は身体能力の差だけではない。俺は心のどこかで「一分経過した俺頑張ったもういいよな」と諦めているのだ。べちゃっ。

踊る人が震えている。踊る人もきついのだ。きつくないわけがない。いつまで続くのだろう。思いながら見ていた。

やがては時が訪れて。踊る人は、まるでお別れの言葉をいうように呟いた。経緯は割愛する。

「ありがとう」べちゃっ。

直進力と鋭さを持つ言葉に、俺は笑った。