「5日中って俺ら時間で、ですか?」「そうですね」

勤め先には、いくつかの取り決めがある。それらの取り決めの一つを、俺とMさんは守っていない。俺とMさんだけが守っていない。

「お前らだけだぞ。いい加減にしろ。全国に××名いる社員の中で、お前らだけがやっていない」

社長との面談で、そう言われた。

「Mさん、社長に怒られた」「俺も」「分かっているんだけどね」「うむ」

それから一ヶ月ほど経って、Mさんから提案があった。

「お互いがお互いを監視しましょう。毎月5日までに、しっかりやっているかどうか」
「ふむふむ」
「もし、どちらかがやっていなかった場合は」
「場合は?」
「やっていない方がやっている方に酒を奢る」
「乗った」

Mさんと約束をする。その約束が、もう一つの約束を――社内での取り決めを守ることになる。これは何か、俺にとって大切なことを示しているのかもしれない。そんなふうに思った。

俺は、少し考えてからMさんに訊いてみた。
「Mさん、どちらもやっていない場合は?」
「――」
そのとき彼がなんと答えたのか、俺は忘れてしまった。惜しい気もするけれど、そんなことはありえないから、ありえないと思ったから、だから忘れてしまったのではないか。そういうことにしよう。

3日か4日か、忘れてしまったけれど、俺はMさんに注意した。「やってない。Mさん、やってないじゃないですか! もうすぐですよ」「あなたもやっていないでしょう! みなくても分かります」「俺は、これからちゃんとやるもの」「あの」「何」「5日中って俺らの時間で、ですか?」Mさんの言いたいことは、すぐに分かった。
「そうですね。帰るまでが俺らにとっての5日だから。30時でも31時でも、5日は5日」

「Mさん、もう5日だよ!!」
「今やってますわ! あなたもやれよ。早くやれ!」
「うん」

5日の28時、俺はこうして日記を書いている。