「『俺は』じゃないんだよ」

先日、母親からメールが届いた。そこには、母が風邪をひいてから2週間経過したことと今年俺が払う住民税について書かれていた。そのときは簡単な返事を送った。

昼ごろに起きた日に、実家に電話した。その時は誰も出なかったのだが、折り返しの電話が父よりあった。

「母さんの風邪は?」
「んー。咳が止まらなくてな。けれど、だいぶんよくなったみたいだよ。今寝てるけど起きたらプール行くって」
「そっか。病院は?」
「行った。X線も撮った。影が写ってたみたいでな、お医者さんから煙草を控えるよういわれたらしい」
「そっか」
「××は? 元気か?」
「うん。俺は大丈夫」

父と電話で話した翌朝、母より「風邪が完治した!」というメールが届いた。会社には俺しかいなかったので、仕事をさぼって実家に電話をかけた。

「いやあ、長引いたけどね、もう大丈夫」
「影があったらしいじゃん」
「……」
「親父から聞いた」
「……」
「煙草は?」
「ははは。それが、まだやめてなくてね」
「俺に言われたくないかもしれないけどやめたほうがいい」
「うん。あのね」
「うん」
「××も、ちょっとおかしいなと思ったらすぐに病院行くんだよ。大丈夫かなあと思って放っておいたら長引いたもの」
「うん。でも俺は大丈夫だよ」
「『俺は』じゃないんだよ」
「わかった」

その後、母親からX線だけではなく、各種検査を(俺が電話ですすめようと思っていたCT検査も)しっかり受けたことを聞いた。とりあえず、心配ないらしい。

「X線写真の影の話だけどさ」
「うん」
「親父は、余計なことを何も俺に話してないよ。俺がしつこく訊いただけ」
「あら。そう」
「うん」
「あなた、しつこく訊いたの?」
「うん」

俺が子供の頃から、父と母はよく喧嘩をしていた。父の一言が多いせいで。だから、きっと今回も母は父が余計な一言を口にしたと思ったに違いないと思った。母が電話で絶句したときに、すぐにわかった。俺に影の話をしない母も、そのことを俺に話してくれる父も、ふたりとも俺の知っている親だったと、今、日記を書いていて思う。そして、俺が父と母の間に生まれたということが、なんとなくしっくりきた。俺も母親に自分の体のことを話していないし、俺も父親のように余計な一言を口にしては、相手を傷つけている。

しなくてよい喧嘩をしてほしくなかったので、母親には「しつこく訊いた」と嘘をついた。