「伝えなくちゃいけないお前の言葉で」

昨年末、友達と約束していた。話を聞いた結果、白紙に戻した。

気をつけていたつもりだったけれど、十分ではなかった。もしくは不適切だった。友達が恋人と喧嘩した。原因は俺らしい。12月28日が終わった夜、いつもの焼鳥屋さんが避難所になっていた。

彼女から話を聞いた俺は「ごめんね」と謝った。そんなつもりじゃなかったし、そんなつもりはなかった。だけれど、俺の気持ちは関係ない。大切なのは、相手がどう思ったかだから。友達の恋人は、一緒にお酒を飲んだり遊んだりするのが嫌だったらしい。よくある話だ。そして、たぶん俺はよくある話が好きじゃなかった。お前の知っている誰かと俺を一緒にするな。俺は誰かに対してそう思っているのかもしれない。少し、嘘をついた。本当は、こう考えている。俺は、お前みたいにはならない。会ったこともない特定の相手に対して、そう思っているのだ。

「あのね」
「はい」
「優先順位の話なんだけど。本当に困ったことが起きたとき、俺は大切なことを上から三番目くらいまで考えて、それ以外の全てを無視する」
「はい」
「俺にとって約束はとても大切なことだけど、今回の場合は三番目までに入らない。ご飯食べに行くの、やめよう」
「‥‥はい」

そうして、我々の約束は白紙に戻った。お店の人になんて言おう。後で考えることにした。

「彼に一言謝ろうと思うんだけど」
「謝らないでください。悪くないんだから」
「良いか悪いかって話じゃない気もする」
「謝らないでください」

困った。

29日は昼くらいに起きた。
友達の恋人からメッセージが届いていた。それは、要約すると「言いがかりをつけてすみませんでした。まったく嫌じゃないので、これからも彼女と仲良くしてください」という内容だった。どうしろっていうんだよ!! 地の文で久し振りに感嘆符を使った気がする。状況が分からない、どういう話になっているのだ。
「起きてる?」友達にメッセージを送ると、すぐに「起きてます!」と返事があった。逃げるな、行け。電話した。緊張する。

「彼、酔っていて何も覚えていないらしいです。私は、ネチネチとメッセージを送り続けています」
「だから、返事が早かったのか」
「はい」
心配だから電話した。言わなかった。
「たぶんまだ間に合う。先のことを考えよう」
二人のことを考えよう。お酒さえ飲まなければ。よくある話の、息の根を止めよう。

友達との電話を終えた後、予約していた店に電話した。どうしよう。俺は、意味のない嘘をついた。
「振られました。一人で行きます」
今日も格好悪い、恥ずかしい。そう思いながら。

店長と料理人。二人が俺を迎えてくれた。俺のことをキッチンの方からチラチラと見ては、にやにやしていた。
「深爪さん、振られちゃダメだよ」
笑った。まったくもって、その通りだ。

「料理の写真、送ってください」
友達からのメッセージ。
「嫌がらせになると思ったからやめておこうと思って」
「ならないです! 送ってください」
二枚ほど送った。
「行きたかった! 行きたかった!! 行きたかったー!!!!」
だから言ったのに。
「今の問題が解決できたら、きっとまた誘うから」
「約束ですよ!」

また、約束か。昨日の友達は、俺が驚くくらいに弱っていたけれど、少しは回復したのだろうか。

俺が何かを話したところで、おそらく、彼は俺の話を聞き流すだろうというのが彼女の予想だった。もしそうなら意味がない。そして、俺には謝って欲しくないとも。優先順位の話だ。俺が納得するかどうかは、三番目までに入らない。最優先するべきは。

年が明けた。彼に会えた俺は二つの提案をした。そのうちのひとつに、彼女は抗議した。無視した。とても大切なことだ。意地悪をしたいんじゃない。俺が悪かったと非を認めず、彼の立つ瀬を壊さず、聞き流すという選択肢を彼から奪う方法はこれしか思いつかなかった。

うまくいくかどうかは分からない。それが分かるのは、早くても来年、もしくは再来年だろう。自分なりには、頑張った。

そういうわけで、ちょっと長くなったけれど本題に入ろうと思う。

はてなブログに引っ越します! 今まで、俺の話を聞いてくれてありがとうございました。これからもよろしくお願いします。いや、本当に。俺の話を聞いてくれ! 俺の、話を、聞いてくれーーーー!!!!!!

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