「ただいま、おかえり。遠くに、家の、明かり」

「じゃあ、何か間違いがあってきみが暇でも大丈夫なように、その日は休みを取るよ」

友達にそう言った。友達の誕生日の前日、休みであるけれど恋人が仕事なのだという。仲間の多い人だからきっと問題ないだろうと予測していたけれど。休日申請を出した。俺はいつも具体的な理由を届出書類に書いているが今回ばかりは「私用」としか書けなかった。

日にちが近くなってきた。「どうなった?」と相手の予定を聞くのもなんだか違う気がした。それは、ちょっと違う。そういうんじゃない。考えた俺は、お休みの日、家でゲームをやっていた。夕方ごろに一度仮眠をとって夜起きる。ああそうだ、お店を始めたということを仲間がSNSで発信していた。彼のお店に行こう。「来ることを教えてくれたらなにがしかのサービスをします」と書いていたけれど、連絡はしなかった。電車で20分くらいの町。最後に来たのはいつだったか。

お店に入るとカウンター席に通される。繁盛している。仲間を発見する。俺を認識するために、彼は三度見を必要とした。

「やけに俺のことを見ている人がいるなあと思って」

「きみの居場所が分かってよかった」

「働くの、一年ぶりですよ」

「ブランクを感じさせないね」

話を聞くと、7月にオープンしたばかりだという。5月は名古屋で研修を受けていたと。唐揚げのおいしい店だった。サービスで、長芋の小鉢を出してくれた。

何年か前、彼が当時仕切っていたお店のおすすめを聞いたことがある。彼は「スタッフです」と即答した。同じ質問を、俺はしなかった。確認するまでもないことだと思ったから。

仲間の顔を見に行ったことを書く。投稿する時間は意図的にずらした。

「誘ってくれたら行ったのに」

冒頭に書いた人とは別の友達がコメントを残してくれた。分かっている、だからだよ。書かなかった。到底予定とは呼べない予定を立てて、それが空振りに終わりそうだから別の人を巻き込むということを、きっと俺はやりたくなかったのだ。何を言っているのか分からねーかもしれないが、たしかに俺も、何を言っているのか分からない。なんじゃそりゃ。

俺は、なるべく約束を守りたいと思っている。それが、俺の考える正しさの一つだから。だけれどと考える。何事にも例外はある。約束もそうなんじゃないか。

約束は果たされるべきもの。この考えを改めるつもりはない。しかし、果たされるべきではない約束というものも、俺のまわりにあるのかもしれない。つまり、約束と遵守、正誤が二段階で訪れるのではないか。約束じたいが誤りだった場合、約束を果たさぬことで正しさを取り戻す。マイナスかけるマイナスみたいなことがあるんじゃないかなあということを考えていた。