「思うままにいけよ、背中くらいは押してやるから」

仕事でとんでもないミスをやらかした。10年に一度のレベル。同僚が助けてくれた。電話と文字でやりとりをする中、彼は一切の動揺を俺にみせなかった。肝が据わっている。終わったあとは笑い飛ばしてくれた。大きな借りができた。俺は彼と同じようにできただろうか。できるだろうか。なってみないと分からないが、やらなくてはならない。それがきっと返すということだから。

「本当に申し訳ない。きみがいてくれて良かった」

彼はなんて答えただろう。昨日のことなのに、もう忘れてしまった。

日勤を終えた俺は焼鳥屋さんに行った。自業自得なのだけれど疲れた。本当に疲れた。カウンターにいる三人は見知った顔。席がひとつ空いていた。

「あとで〇〇ちゃんも来ますよ」

そうだよね、そうだと思った。彼女の座る席がない。入れ違いで帰ろう、俺はそう考えてから座った。俺もいるということを彼女の恋人が教えたのだろう。俺の方にも連絡があった。

「座る席がないから、きっと俺は帰るよ」

あちこちから引き留められる。そうこうしているあいだに、仕事を終えた友達が来た。店員は、椅子を引っ張り出して席を増やした。このお店のカウンターにはプラスワンシステムがあった。俺は仕事の話をしなかった。彼らとの会話から得られる発見は多い。仮にそれが冗談であったとしても。

「あの人は10年の間にどんなふうに変わっていったんだろう」

仲の良いあるふぁきゅん仲間が俺のことをそんなふうに言っていた。彼はツイッターに残っている俺の書き込みを全て読んだという猛者である。おおよそ10年分。消してしまったものもたくさんあるけれど、それでも膨大な時間を費やしたはずだ。ログを読み終えたあと、そう呟いたのだった。たしか高校三年生。頭が良く、礼儀正しい。

もしも俺に変化があったなら、それは周囲の影響が大きい。

「カラオケに行きたい」

友達がそう言った。俺が帰ろうとすると再び引き留められた。

「行きましょう」

歌うの、あんまり得意じゃない。でも、きみの歌は好きだ。

「いいよ、行こう」

仕事が終わった店員は彼女の恋人とお酒を飲んでいた。二人は仲が良い。席を立つ気配がない。もう少し飲んでいくらしい。カラオケ、二人で行くのか。彼らが来たのは一時間後くらい。俺は、へたくそな歌をうたった。

カラオケ屋さんを出たあと、三人は「家に行く。行かねばならないのです」と言い出した。友達は次の日早くから予定があると言っていた気がするのだけれど。コンビニで一本ずつ酒を買った。彼らを友人と呼ぶのは若干の抵抗がある。あるけれど。

「あなたは限られた人だけじゃなくて、もっといろいろな人と関わった方がいい」

昔、大切な人に言われた言葉。どうなんだろう。きみの言うとおりになっただろうか。友達100人できるかなという方向で努力しているとは言えないけれど、だけれど何人か、俺と関わってくれる人がいる。たぶん。