「生まれ変わってもまた会おう、同じ場所でまた会おう」

「パソコン得意ですか? 得意ですよね。パソコン持っていますもんね」

友達の問いは質問という形を採りながら、実質的には俺に何も聞いていなかった。

何年か前に、全く異なる場面でこの手口を使っている人を見たことがある。とある舞台が終わった後の対談でそれは起きた。司会が観客に求めたのは質問だった。一方、マイクを手にした観客の一人が口にしたのは非難だった。非難がよろしくないとは言わない。俺は、批判や批評に興味があったけれど、悪いとは思わない。ただ、彼のアプローチが気に食わなかった。前半では質問のような文法を選びながら徐々に非難に寄せていく彼が不愉快だった。俺だったら「これは非難です」と最初に伝えるだろう。そのあと司会が話を切るなら相手か場が非難を求めていないということだ。そのまま黙ればいい。話が逸れた。

友達の言葉は不愉快じゃなかった。その勢いは潔く、何か困っていることがあると分かったから。

「得意とはいえない。たぶんバイエルを卒業したくらい。どした?」

「演奏会のプログラムを作って欲しい」

「センスない」

「なくて良いです」

「いいよ」

「ありがとうございます」

「ひとつお願いがある」

「はい!」

「俺が関わったことは言わないで欲しい」

「恋人に?」

「うん」

「もちろんです」

自分の考える礼儀を優先していたら失敗した。昨年の話だ。だから、礼儀より優先するべきものがあるかもしれないと考えている。これは今年の話。一般論ではなく個人的な話である。

音大の仲間たちと再び集まりコンサートを開くという話は聞いていた。

プログラムなんて作ったことないぞ。「こんな感じで」と画像が送られてきた。なるほど、試しにやってみる。少し考えてから、友達の母校を検索する。学校案内に添えられたイラストと校章をコピーして貼り付けてみた。おお、なんかそれっぽくなった。なお、校章の拡張子は俺の知らないものだった。なんだろう、これ、保存できない。違うところから持ってきた。

「怒られるかなあ」

独り言。

「絶対怒られる」

これも、独り言。

友達に「こんな感じ?」と送った。

「ありがとうございます! ……待ってください、これ、うちの校章ですか?」

「勝手に持ってきた」

「ひっさしぶりにみました」

「イラストも学校のやつを」

「初めてみました」

「やっぱりダメかな」

「当日渡すものなので多分バレないとは思うんですけど……」

細かいところは直接打ち合わせたいと言われた。

「あれ友達にも見せたんですけど」

「え、見せたの」

「見せました。気持ちは嬉しいけどやっぱり良くないだろうって」

「俺もそう思う」

「絶対やめさせるってみんなに言ってきました」

「きみも大変だね」

「みんなも、ちゃんとお礼したいって」

「俺のことも話したの?」

「飲み屋で知り合ったおじさんて」

「それはひどい」

「なんて紹介したら良いのか分からなくて」

友達、心配していないと良いけどなあ。

「お礼は、いいよ。きみが言ってくれたからもう十分」

俺がそう言ったとき、友達がどう思ったのか分からなかった。拒絶じゃないんだ。そうじゃないんだけど、たいしたことやってないし、だけれど、どうなんだろう、もうちょっと考えてみる。

表紙に関しては友達のアイデアを採用した。俺の考えじゃないから自画自賛にはならないだろう、これ、いいぞ、誰かに自慢したい。

そういうわけで、実家に帰った俺はクラシックの音源をせっせと携帯電話に入れている。音楽は好きだけれどクラシックのことはほとんど何も知らない。不安だ、不安でしかない。耳もよくないしなあ。

「できればですね。どういう曲か知ってもらってから来ていただいた方が」

「きいてみる」

約束は、できる限り守りたい。