「次はきみの番だと笑っている」

アパートの近くにあるコンビニに寄ると見覚えのあるリュックサックを背負っている人がいた。北欧のリュックサック、モスグリーンのコート。彼女はおにぎりコーナーにいた。顔はみえないけれど、髪の長さと色も記憶と一致した。ただし、まっすぐだった。友達の髪はまっすぐじゃない。服装も、ちょっと違った。俺は一度店を出た。他人の空似だよな。もう一度店に入って、アイスコーヒーを買った。別人だった。

「きみに似ている人がいた。でも髪がストレートだったし、ジーンズをはいていたし、違う人だった」

「飲んでいます。この後、友達と合流するんですけど、一緒に飲みませんか?」

その日、俺は眠かった。夜勤が終わって3時間くらい寝て起きて日勤を終えたのだ。5時間勤務。

「客が私しかいないんです。きてー。早くきてー」

それではお友達が来るまでと彼女に伝えた。

「一回店を出たんですか?」

「うん」

「不審者すぎる」

「ね」

「その時間に私がおにぎりを買うことはありえません」

「そうなのか。後ろ姿、似ていた」

「あの」

「うん」

「怒るかもしれないんですけど」

「ん?」

「もう一回、録り直したいです」

「怒らないよ。納得がいかない?」

「はい」

「あんまり、内緒ごとを押し付けたくないんだけど、彼に言わないなら」

「気にしすぎだと思いますよ」

俺は訂正しなかった。彼のことはあまり考えていない。きみのことを考えている。もう、あんなふうに弱っているところを見たくなかった。

「やろう。もう一度」

「はい」

俺は理解を求めていないのかもしれない。それは、あるいは怠惰かもしれない。お別れの挨拶を、俺は既に済ませている。だから大丈夫。もう大丈夫。もう一度、やろう。