「しょうがないけど笑いながら、追い出さないで暮らしてみる」

11月25日の日曜日はお休みだったが、少しだけ会社に行った。週末、色々なものをぶん投げて帰ったから。1時間もあれば終わるだろう、パソコンを開いたとき同僚のRからメッセージが届いた。
「家っすか!」
「ううん。今、会社ついたとこ」
「現場っすか!?」
「いや、明日の準備」
「中華料理屋さんと焼き鳥屋さん、どっちがいいですか!」
飲むことは決まっているのか。笑った。
後で話を聞いたところによると、日中、Rはゲーム仲間と遊んでいたらしい。彼はそのままお酒を飲みに行くつもりだったが、ゲームが盛り上がってしまい、酒の席がなくなった。お酒を飲む気になっていたRは、代わりというわけでもないけれど休みである俺とMさんに連絡を取った。なるほど、よく分かった。なお、Mさんからの返信は、我々が一緒のときにあった。
元々、明日の準備が終わったら焼き鳥屋さんに行こうと思っていた。明日は早い、7時に起きなくてはならない。普段夕方に起きる俺にとっては、早起きである。Rは気兼ねなく話せる同僚であるし誘ってくれた彼の気持ちもある。Rじゃなければ、断っていたかもしれない。
携帯電話は引き続きブルブルと震えていた。無視して準備を終わらせた。



テーブル席で酒を飲みながらRとモンスト。このゲームを、我々は比較的真面目にやっている。2年か3年。そして、彼はモンストの師匠だった。彼の技術には届いていないけれど、ゲームについて話し合うくらいのことはできるようになった。
途中、カウンター席にKさんが座った。昨年の7月、深夜に連絡してきた友人である。軽く挨拶を交わす。その後、Cさんも店に来てカウンターに座った。彼女の挨拶も最小限だった、いや、素っ気なかった。「ミックスをやらずに遊んでいるのか!」違う。そんなことを思う人じゃない。
「みんな友達ですか?」
「うん、みんなじゃないけど」
俺はRに二人を紹介した。
彼がトイレに行ったとき、Cさんが話しかけてきた。
「私のこと、会社の人に知られたら駄目なのかと思っていました」
彼女だけではなく、二人とも、どうやら気を遣ってくれていたらしい。だけれど、誰かに何かを知られて困る関わりが俺にはなかった。
「Rは、俺たちが音楽やろうとしていることも知っているよ」

会計を済ませ、Rと店を出た。彼は、そのままネットカフェに行った。まだ電車がある時間だったけれど、今日は家に帰らないらしい。色々あるのだろう。

家に帰ってコーヒーを飲んでいるとCさんから着信があった。1時22分。珍しい、初めてじゃないか、なんだろう。

「あの、とあるヤカラがですね。家を知らないとしょんぼりしていまして」
「だから、隠していないってば」
「お酒買いました。飲みましょう」
「待て。待って。家は無理だよ。本当に無理なんだ。君たちがという意味じゃなくて、例外なく無理なんだ」
「家の前でいいから飲みましょう」
「明日、俺、早い」
「何時ですか? 私たちは休みです」
「7時。嘘じゃない」
「早っ! もうすぐ着きます」

俺はジャージのまま上着を羽織り、外に出た。

桃の缶酎ハイをおごってもらった。アパートの前にある公園で飲む。寒い。話の流れでCさんの家に行くことになった。俺はもう、学生のような飲み方をする年齢でもないのだが。彼らの後を付いていった。
「Cさん、こんなことは言いたくないのだけれど、こんな夜遅くにだね」
「相手は選んでいます」
「そうかもしれないけど」
「選んでいます」

あまりにピシャリとしていて、笑ってしまった。

「彼ら」は、この日記を読んでいない。だから正直に書こうと思う。

この夜、本当はCさんと話がしたかった。音楽の話。

もしかしたら店に来るかもしれないと思っていた。だけれど、Rが俺を誘ってくれた。どんな事情があったにせよ、せっかく誘ってくれたのだ、音楽のことを一度忘れてRとゲームを楽しもう、そう思った。Cさんはお店に来た。それはそれ、これはこれであった。Rと別れて店に戻るという選択肢もなかった。今日はそういう夜だ、俺が決めたから。
Cさんから電話があったとき「人の気も知らないで」と笑った。身勝手な物言いではあるけれど、そう思った。
俺は好意を隠さない傾向にある。自覚している。だからといって、彼らが俺の考えを察したとは思えない。彼女が俺に連絡してきたのは偶然だろう。そうだ、Kさんはこの日、電話をなくしていた。
Kさんも、俺にとっては大切な友人である。俺は、音楽の話をしなかった。三人で話したい内容を選んだ。たとえば、服の話。俺が服の話をするということ。俺のことを知っている人はどう思うだろうか。越川くんとしたことはある。が、それは参考にならない。
Kさんを一人残して先に帰るのもいかがなものか。彼らは俺の帰りたいオーラをしっかりと感じていた、解散したのは午前4時くらい、良い友人を持った。お前ら、覚えてろよ。

次の日、俺は寝坊しなかった。

後日、カウンターでKさんと一緒になった。

「こないだは、やってくれたな」
「何のことでしょう」
「忘れたとは言わせない」
「違うんですよ」

Kさんは、俺の勘違いを正した。俺は、KさんがCさんに電話を掛けさせたと思っていた。彼は電話を持っていなかったし、Cさんからの電話だったら出ると予測して。そうではなかった。

「夜も遅かったし、ほら、一応Cちゃんを家まで送ろうと思ったんですよ」
「うん」
「で、歩いているときに家を知らないって話になって」
「うんうん。隠していないけどね」
「Cちゃんが、私知っていますと」
「ん?」
「案内しますと言わんばかりで」
「う、うん」
「せっかくだからお酒を飲みましょうという話になって」
「……」
「家の前で乾杯して終わると思っていたんですけど、まさかあーなるとは」
「……」

主犯は、二人いた。