「隠して仕舞ったんだ」

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+α/あるふぁきゅん。の全国6都市ツアー。7月15日の日曜日、俺は大阪にいた。

ふぁっきゅんが喉をやってしまったことを、俺はお台場で知った。その後のリリースイベントにおいても、彼女はファンの人たちに謝っていた。「ミニライブでは、本当は3曲歌う。もうほぼ大丈夫なのだけれど、大阪と名古屋のライブを控えている。申し訳ないが、1曲減らし、2曲だけ歌わせてもらう。この2曲を一生懸命歌う」と。

彼女は専門学校時代、歌や演奏のあれこれより回復する方法について重点的に学んでいたと、昔のインタビュー記事に書いてあった。だからというわけではないけれど、俺は心配している以上に信じていた。ふぁっきゅんなら大丈夫だ。治す方法を、彼女は知っているんだから。大丈夫。

大阪の最高気温は37℃らしい。外でうろうろしている間、俺は500ccの水を3本空けていた。暑い。北堀江club vijonは、名前は知っていたけれど行ったことのないライブハウスだった。ステージが高い。よくみえる。チケットは完売。ライブが始まった。

一曲目で分かった。治ったんだ。彼女は、この日に合わせてきちんと治してきたんだ。次の曲はゴーストルール。彼女が実際に歌うところを見るのは二度目である。7月8日にあった大宮のミニライブで一度見ている。

率直な感想として、心には響かない。(2017年6月8日)

前言を撤回する。感動した(2017年6月9日)

「鳥肌が立った」とか「心がふるえた」とか「涙があふれた」とか言いたいのだけれど、どれも事実ではない。おそらく「かたまった」という言葉が近い。(2018年3月3日)

「この人、やっぱり凄いや」と泣きそうになった。(2018年7月1日)

俺の左目から、涙が出てきた。遅れて、右目からも。涙が止まらん。後に、他のファンも「ゴーストルールに感動した」と書いていることを知る。俺も感動したんだろうか? 分からない。彼女のライブで、俺は初めて泣いた。
俺にとって身の丈の形容とは漫画である。飾ってもしょうがない。ハンターハンターでゴンの練をみたレイザーが「化け物‥‥」とつぶやくシーンがあったと思うのだけれど、きっと、俺はレイザーと同じような気持ちだった。ふぁっきゅんの歌は、何かを突き抜けていた。

なんというか、彼女は後先のことを考えていない気がしてきた。半端じゃない。だけれど、残りのライブも大切に思っている。そうか。書いていて分かった。彼女は、たぶんライブ中に次のことを考えていない。その後だ。ライブが終わった後、次までにどうするべきかを考えている。

6月の下旬、上司に呼ばれた。
「相談があるんだけど。お前、7月休み取ってるじゃん」
「はい」
「大阪と名古屋でしょ。なんとか、出張入れてあげられないかと思って。でも、現時点では、あっちで仕事ないんだよね」
「お気遣いありがとうございます。でも、ちゃんとお小遣い貯めていますし、大丈夫です」
「もしかしたら、九州入るかもしれん」
「九州‥‥」
「もし入ったら、その後、(経費を使って)電車で戻ってこい」
確かに途中下車は可能だが、笑ってしまった。公私混同という言葉を使って良いのか分からないけど、本当に、その気持ちだけで十分だった。

7月上旬、再び上司に呼ばれた。
「あのさ、こういう感じで組んでみたんだけど、どう思う?」
月曜関東。火曜日大阪。金曜日まで名古屋、更に移動、土曜日大阪。日と月はお休み。これは‥‥。「何か、無茶苦茶なスケジュールになっていないか?」という誤解が生まれる組み方だった。案の定、数人の同僚に心配された。俺はそのたびに「今回のスケは心遣いによって組まれたもので、無理を強要されたものではない」と弁明した。
「ライブ、これで行ける?」
「行けます。ありがとうございます」