「僕のボスなら僕だけだ」

一言、彼に謝りたかった。

普段どおりなら、行くことができないが、その日はたまたま日勤になった。仕事を終えた俺は、ライブハウスに向かった。到着したのは彼らが出演する20分くらい前だろうか、間に合った。ワイシャツ姿の客が何人かいたけれど、スーツのジャケットを着ているのは俺だけだった。昔、友人のライブに来た方のことを思い出す。その場に俺はいなかったが、もしかしたら、その時の彼と今の俺は、同じくらいの年齢になっただろうか。それとも、今の俺の方が上だろうか。

男の人がひとり、ギターを弾きながら歌っていた。一曲聴いて「最初から見たかったな」と感じた。格好いい。大阪から来てくれたらしい。彼は、斧出拓也と名乗った。

彼の演奏が終わり、彼らが準備を始める。彼らの演奏中、演奏後、ちょっとしたビール祭りになったが、それはまた別の話。結果的に、俺は、謝ることができた。

俺は、バーカウンターの前にいた彼に「何飲む?」と訊いた。彼も、ビールを選んだ。家に帰り、本人が上げている動画をみた。タイムスタンプは2016年。

これはこれで良い演奏なのだけれど。だけれど、俺は保証する。今の方がもっと格好いい。

彼と彼と彼らと彼と。彼がいっぱいいる。申し訳なく思う。