ありがとう。泊まるつもりはなかったんだ。そう思いながら、無断で友達の履物を借り、勝手に友達の部屋の鍵を持ってパンと漫画を買いにいく。

「俺休み。君は?」「休み。遊ぶ?」日比谷線に乗り換えて越川くんの部屋に向かう。「何して遊ぶ? 花火?」「いいね」北千住で途中下車し、ドトールで休む。日曜日は、とても暑い日だった。花火が見つからなかったのでまた電車に乗る。スーパーマーケットで涼む。「肉が売ってる。グラム××円。安い?」「ふつうかな」「一番値引率の高いやつを買ってく」本当のところは分からないけれど、一応は半額くらいになっていた。「とても暑いから、へたに動かないほうがいいかもしれない。日が落ちたら花火を探しにいこう」「ビールでいい?」「ありがとう」年齢の話になり、そこから、彼と知り合ってもうすぐ10年になるのだなあと思う。音楽をききながら、自分の感覚を伝える。間違っているところや合わないところがあるだろうけど、越川くんは、黙って俺の話をきいている。「バドミントンする?」「うん」10分くらい羽を追う。息が上がる。焼酎を紅茶で割った飲み物。あのさ、俺。日が落ちる。肉を焼く。「××さんの分は」「大丈夫。たぶん食べないんじゃないかな」「半分とっておいたほうが」「いい。全部焼く」彼は胡椒を振る。味の素を足す。醤油も。右手でなじませる。「昔から思ってたんだけど」「うん」「君の手、悪魔の手みたいだよね」「初めていわれたよそんなこと」悪魔の手、みたことがないけど。焼く。二枚重ねて切る。なるほど、それなら一度で済む。友達の料理に感心する。越川くん、俺ね。「カッコいいね。イギリスのひと?」「アメリカかな。UKとアメリカ、もうきいて判断するのは難しいと思うよ」「イギリスの音楽をきいて音楽を始めたアメリカのひとだっているものね」「そうだね」使い方のよくわからないパソコンで××××の音楽をかける。「どれくらいきいてない?」「どれくらいというか、きかない」「たまには普段きかない音楽をきくのもいいかもしれない」Bメロの途中、越川くんは「うるせえ……」といって再生を止めた。笑う。花火を買いに出掛ける。きくところによるとおおよそ3キロくらい。歩く。店は閉まっていた。レジを閉めるひとたちは、俺たちを見ないようにしている。そう感じた。「目、合った?」「うん。一度だけ」店の隣のバッティングセンターに寄る。生まれて初めてのバッティングセンター。バットの振り方も分からない。野球、やったことがない。100円玉を二回入れる。とてもじゃないが、当たらない。「楽しかったね」「右肩に違和感が」気がついたら眠っていた。眠るつもりはなかった。「ご飯、食べにいく?」「どこへ?」「中華か居酒屋さん」××さんと越川くんの後ろを歩く。注文してから終電を調べる。「ほとんど時間がない」「泊まっていくといいよ」「ありがとう」部屋に戻って×××を再生する。「どれくらいきいてない?」「だから、きかないってば」アラームを10時半にセットする。寝る。6時に目を覚ます。ふたりは眠っている。居間でハンターハンターを読む。そういえば、今日かもしれない。友達の履物を借りる。少し考えてから、鍵をかけていくことにした。きっとそこにあると思った場所に、鍵はあった。ハンターハンターの新刊を買いに出掛ける。お店がまだ開いていないので、朝食をとりながらヒストリエを読む。1巻と2巻。10時すぎに2冊買う。1冊は越川くんの、もう1冊は俺の。パンをふたつ買う。ひとつは越川くんの、もうひとつは××さんの。俺はもう食べたから。昨日は、越川くんの部屋にあるお酒をご馳走になったから。起こす。「俺、そろそろいくね」「うん」またね。